地域通貨「てこな」


 皆さんこんにちは。総務省の牧でございます。今日は私の方から市川市で取り組んでおります「てこな」という地域通貨についてお話をさせて頂きたいと思います。
 まず、「てこな」の由来についてですが、市川市に伝わる伝説の美女の名前です。地域通貨については、実は政府全体で地域再生というものに取り組んでおりまして、地域通貨支援もその一環であり、様々な地域通貨のひとつのタイプとしてお聞き頂ければと思います。
 なぜ総務省が今、地域通貨を支援するのかというところから少しお話をしたいと思いますが、バブルが崩壊して景気が悪くなった時に政府は何をやったかというと一生懸命補正予算を組んで公共事業を増やし、国も地方も借金をしてでも財政支出をして景気対策を続けてきました。しかし、昔と違って景気対策をしたらしばらくして景気が良くなって税収が回復するというような景気循環になっていない、なかなか構造的に難しい問題があるのではないか。景気が回復しないままに国も地方も財政支出で借金を重ねてしまい、このままではやっていけない状況になったわけです。そこで総務省では千葉商科大学の加藤寛先生を座長に公共事業をはじめとする財政支出に頼らない新たな地域経済を元気にする手法が考えられないかと研究会を始めまして、その中で非常に有力なツールとして着目したのが、この地域通貨です。
 このように地域コミュニティの活性化や地域経済の活性化に繋げたいということで地域通貨に取り組んでいるところですが、総務省が推進している地域通貨の特徴は2つあります。ひとつは自治体が発行すること。もうひとつは「ICT」情報通信技術を使って電子的なポイントとして地域通貨を運用するということ。自治体が発行し電子的なポイントとして運用する地域通貨が今、総務省が支援している地域通貨のモデルです。今年度、全国で市川市の他に福岡県の北九州市、熊本県の小国町でこの2ヶ月間実証実験を行なったところです。
 自治体が発行することと「ICT」を活用することでどういうメリットがあるのか。地域通貨は全国で数百あると言われていますが、各地の地域通貨はいろんな悩みにぶつかっているのではないでしょうか。ひとつは認知度、信頼性。さらに地域通貨がきちっと滞留せずにうまく循環していくかどうかということが、全国各地の取り組みにおける悩みかと思います。午前中の岸本さんのお話にもあったと思いますが地域通貨を運用していく際に色々な法規制があり、また税金についてもどういった扱いとなるのか、こうした問題もあります。そこで、実際民間やNPOが発行している地域通貨が多いと思いますが、地方自治体が発行するとどうなるのかというと、ひとつは安心感、信頼感。さらにはプリペイドカード規制などの法的な問題を自治体が発行主体になることによってクリアできるということです。もうひとつ自治体の役割として地域通貨を滞留させない、地域通貨長者を作らないために我々が着目したのは地域通貨の最初の発行の部分と最後の回収の部分です。特に使い道の部分、誰にでも利用できる使途をきちっと確保することが、地域通貨を循環させる一番の大きなポイントになるのではないか、そこを自治体が引き受けることでうまく循環するのではないかと期待しています。
 それからICTの活用ですが、先ほども岸本さんから紙幣類似証券取締法という法律の話がありましたが、実は地域通貨をやっていて気になるのがこの法律だと思うのですけど、電子的なポイントは取締りの対象外となります。しかも、ICTを活用して電子的なポイントとして地域通貨を運用することによって、紙幣や通帳方式だとなかなか管理が難しく、広がっていくと偽造といった問題も出てくると思いますが、こうした地域通貨のオペレーションの問題も、ICTを活用して解決することができます。
 総務省で取り組んでいるモデルシステムは、銀行口座にあたるセンターサーバーでポイントを管理するパターンと、ICチップが内蔵されている住基カードにポイントをのせるという2つのパターンから構成されます。センターサーバーで管理するパターンについては、都道府県知事が公的な電子証明書を発行して本人確認をする公的個人認証サービスが昨年の1月から始まっていますが、これで厳格に本人確認をする方法と、携帯電話ひとつひとつに付された機体番号を使って確実に本人認証をする方法があります。もうひとつの住基カードについては、今はまだあまり普及しておらず悩ましいところですが、住基カードも様々な活用方法がありまして、誰でも500円程度で入手できる住基カードに内蔵されたICチップにポイントを貯めることができます。この2つのパターンを組み合わせ電子的なポイントとして地域通貨を運用していこうというのが、総務省が支援しているモデル事業で、市川市でもこうした運用がなされているところです。
 次に「てこな」の具体的な運用の話に移りますが、自治体が発行し電子的なポイントとして地域通貨を運用していくことで、法的な問題やオペレーションの問題をクリアしていこうということもありますが、我々が目指しているのは地域再生であり、地域を元気にしていくことが目的です。そこで、自治体が実際にどういう取り組みをしているかについて併せて説明をしたいと思います。
 実は総務省が進めているモデル事業は、平たく言うと何か世の中にとって良い事をした人、公益に貢献する活動をした人に自治体が地域通貨を振り出すというものです。そして、地域通貨がぐるぐる回って最後にどこへ行くかというと、公共施設の利用といった最終的な使い道を自治体が用意するという仕組みにしています。市川市の場合2ヶ月間で1000人以上の参加を得て実証実験を行なったわけですが、市川市でまず入手先となったのは、地域の安心安全でした。どうしたら地域通貨のポイントが入手できるかというと、地域の安心安全を守る防犯パトロールなどの活動を行なった方々にポイントを振り出しました。昔はボランティアというのは完全無報酬という考え方もあったかと思うのですが、例えば防犯パトロールをした時にもらったポイントが、市川市の動物園や駐車場で使える、また市内のショッピングモール約150店舗でも地域通貨を受け入れていただきました。このほか地域の安心安全を守る活動としては、情報通信技術を使って、市内に貼ってある安心安全のポスターに載っている2次元バーコードを携帯電話のカメラで写すことにより、不審者がいるとか、電線に枝が引っ掛っているといった安心安全情報を通知すると地域通貨が貯まります。この他にも子育てボランティアなど地域の公益を増すような何か善い活動をした方々に地域通貨のポイントを振り出します。最終的な「てこな」の使い道については、市立の公民館、動植物園のほか、千葉県庁にも協力して頂き、様々な公共施設で受け入れています。美術館にしても、動物園にしても入場者が増えたからといってコストがかかるというものではありません。むしろ沢山の市民の方に動物園に遊びにきてほしい、美術館に見に来てほしいわけで、行政にしてみれば利用者が増えることが望ましいわけです。こういうところで地域通貨の最終的な使い道をきちっと用意してあげて、それで安心安全の防犯パトロールや子育て支援などのボランティア活動をエンカレッジする。これが市川市で取り組まれた地域通貨のモデルです。
 ちなみに全国でこのほか2ヶ所でモデル事業を展開しました。ひとつは北九州市ですが、ここでのテーマは環境です。環境に良い活動を行なった人にポイントを振り出します。北九州市での使い道で一番多かったのは有料ゴミ袋との交換です。北九州市はごみ減量化のためにゴミ回収を有料化しています。お金を取ることが目的ではなく、ゴミを減らすことを目的にゴミの有料化をしているわけですけれども、例えばマイバックを持っていってレジ袋を受け取らない、あるいはリサイクル活動に協力する、また地域清掃活動に協力する。そうした形で環境に貢献した人に地域通貨のポイントを振り出す。そして、市がゴミを回収する時には、一般ゴミも事業系ゴミも含めて有料ゴミ袋と地域通貨のポイントを交換できるようにしました。要は環境に良い活動をすればゴミ回収料金も地域通貨で支払える。環境に良い活動をすれば一石二鳥でお得になりますよ、という仕組みで北九州市では地域通貨のモデルシステムを構築したわけです。そしてもう一ヶ所が熊本県小国町ですけれども、ここは丸山先生からもご紹介がありましたグリーンツーリズムで小国町に農作業や枝払いなどの活動に来られた方にポイントを振り出し、町営の温泉施設で地域通貨を使えるようにするなど、都市住民との交流ということをテーマにしています。私たちが思っておりますのは、地域通貨はあくまで道具、ツールに過ぎない。何らかのテーマ、目的を持ってそれを実現する為の手段として、地域通貨が有効に機能するのではないか。特に自治体が発行して電子的なICT技術で厳格に本人確認をしてセキュリティもしっかりとして運用することによって自治体がNPOやボランティア団体など色々な方々の公益に資する良い活動を応援する、こうした地域通貨を私どもはモデルとして想定しているところです。市川も北九州も小国もこの実証実験が終わってからも取り組みを継続することになっており、来年度も5つほどの自治体で、モデル事業を展開する予定です。こうした形で自治体が地域通貨の発行主体となり、公益的な活動を応援するためにポイントを振り出して、自治体にとって追加コストのかからない美術館、動物園、駐車場あるいは温泉施設などでポイントを受け入れる。さらに自治体が地域通貨を振り出してから受け入れる間に民間も含め地域の中でぐるぐる循環するような動きに繋がっていければ、おそらく地域コミュニティそして地域経済も元気になっていくのではないかと期待しているところです。以上で私の発表を終わらせていただきます。