素晴らしき北海道の山々


 日本国土の2割を超える広さを誇る北の大地。九州、四国をあわせた面積を凌ぐこの北海道に座する山々は、名前が付いているものだけでも1349座、二千メートル級の山は27座を数える。
 私が北海道へ赴任したのは1999年5月。自治省(現総務省)に入省して以来、東京をベースに奈良県、北九州市、島根県に勤務し、全国各地の山々を登ってきたが、北海道の山は他府県の追従を許さない素晴らしい魅力にあふれている。
 まずは何と言っても恵み豊かな大自然であろう。なかでも動植物の宝庫としては全国随一に違いない。99年7月に上ホロカメットクから富良野岳までの稜線を歩き、美しい花の絨毯に感動して以来、可憐な高山植物との出会いが山登りの楽しみになった。大雪山系や夕張山地はもちろん、緯度の高い北海道ではアポイ岳や大千軒岳のような千メートル前後の山でも素晴らしいお花畑と巡り会うことができる。遊楽部岳やチロロ岳でヒグマと遭遇しかけた時には緊張感が走ったが、ナキウサギやホシガラスの姿を目にした時、この愛くるしい動物達が暮らす自然を守らなければならないと思った。また、現地調達したタモギダケ、ナラダケのスープや行者大蒜入りのジンギスカンは絶品。夏の太陽のもと雪渓で冷やしたビールも最高だ。そして下山後の楽しみが温泉。目国内岳から雷電山へ縦走した後に汗を流した朝日温泉、ニペソツ下山後の幌加温泉など野趣あふれる露天風呂は疲れを心底癒してくれた。
 また、北海道の山の醍醐味としては、登山道のない山でも楽しむことができる雪山と夏の沢登りが挙げられる。私も昨年2月のチトカニウシでは雪洞泊を初体験し、天候が安定する固雪シーズンには百松沢山、漁岳、浜益岳、雄冬山など春の陽射しを浴びて輝く山々をツボ足で楽しむことができた。また、沢登りで到達する日高山脈の核心部には、人を寄せつけない手つかずの大自然が残っており、なかでもカムエク登頂は私の一生の想い出である。もちろん、北海道には家族で手軽に登れる山も多く、樽前山、ニセコアンヌプリ、室蘭岳、藻琴山、恵山などは雄大な景観を満喫できる絶好のハイキングコースである。
 そして、北海道の山々は広大だが、岳人のつながりは密である。深田百名山に数えられる山々には内地から大勢の登山客が訪れるが、ほとんどの山では静かな山行が楽しめる。ばったり知人に会うことも珍しくないし、たとえ旧知の間柄でなくともそこには自然と声掛けや語り合いが生まれる。そこには、北海道は一つというまとまりの良さがある。札幌岳から空沼岳を縦走した際、もの凄い藪漕ぎにこのままでは廃道になるとメールで呼びかけたところ、40名のボランティアが集まって縦走路の笹刈りも実現した。北海道の山で一つ不快な思いをするのが汚れたティッシュの散乱だが、この問題も解決に向けた大きな流れができつつある。私もニセイカウシュッペから平山を縦走した際、全道一斉山のトイレデーの活動に参加したが、アンケートに答える登山者の関心も高く、多くの温かいご厚志をいただいた。
 最後に私一押しの山を挙げておきたい。それは増毛山塊の群別岳である。この道内屈指の鋭鋒は、札幌近郊にありながら容易に人を寄せつけない威厳と風格がある。私も一昨年5月に固雪を踏んで4時間をかけて山頂に立ち、360度の大展望に感動。昨年8月には群別川本流を詰めたが、滝ありゴルジュありの素晴らしいものだった。雪山、夏の沢ともに日帰り山行としては最高の満足感を味わえること請け合いである。
このように恵み豊かな自然と心豊かな人々、北海道の山々がその素晴らしさをいつまでも保ち続けてほしいと願っている。

【日本山岳会 ヌプリ32号寄稿】