【広報はまます 平成15年1月号寄稿 「浜益10名山」 最終回】

浜益岳(1257.7m)

 浜益岳は、その名のとおり浜益村を代表する山である。浜益村小史によると、浜益は遠いむかし「マシケイ」と呼ばれていたそうである。マシとは鴎、ケイとは成るとの意味で、おびただしい魚の群が押し寄せて、海湾一面に鴎が群がっていた様子を伺い知ることができる。その後、和人によって「マシケイ」に「益毛」という文字をあてはめて呼ばれるようになり、明治2年に北海道開拓史が置かれたとき「浜益毛」から「浜益」に改称されている。
 浜益岳の山頂には一等三角点(補点。本点は暑寒別岳)があり、国土地理院の資料によると、明治39年には陸軍陸地測量部により標石が埋定されている。三角点は測量上の重要なポイントとして、遠くを見渡すことができ、相手からもよく見えることが必要である。浜益村内には黄金山(二等)、群別岳(三等)、雄冬山(三等)にも三角点はあるが、一等三角点があるのは浜益岳だけである。浜益岳に浜益という村名を冠することとされたのは、この一等三角点が存在する由縁と深く関わっているように思われる。ちなみに、一等三角点は全国に973あり、うち北海道内には224(本点88、補点136)もあるが、道内1000m以上の山岳に設置された一等三角点は55であり、浜益岳が北海道の百名山に数えられることも頷けるところである。
 北海道山岳会の創設された大正12年の5月には、北大メンバーが増毛山道の武好駅逓から雄冬山、浜益岳、群別岳、暑寒別岳と3日がかりで縦走し、山ノ神に下ったとの記録がある。
 さて、私が自治省(現・総務省)から北海道庁へ赴任したのは平成11年5月。それ以来、北海道の山に魅せられて道内各地に足を運び、三年足らずの赴任期間中に道内百座を超える山々に登ったが、私が初めて浜益村の山へ登ったのは平成11年9月の黄金山である。当時、道庁から浜益村に出向していた高橋財政課長、税務課長だった増田さん、そして浜益村から道庁へ研修に来ていた袴田さんに道庁市町村課のメンバーも加わって登頂。なかなかの好天で、浜益の山並みを眺めながら、その魅力を増田さんからお聞きし、翌12年の5月には浜益御殿と浜益岳、そして群別岳。さらに翌13年4月には浜益御殿から雄冬山。8月には再び増田さんの案内で北海道の山メーリングリストの仲間と群別本流の沢から群別岳の頂を踏むことができた。そして、下山後に浜益温泉で汗を流し、天然の黒舞茸や鹿肉の鍋に舌鼓を打ったことも懐かしい想い出である。
 浜益の山々の魅力と言えば、まず眺望が抜群である。どっしりとした暑寒別岳と鋭い群別岳の姿は、日高山脈の幌尻岳とカムイエクウチカウシ山を彷彿とさせる。なかでも浜益岳から眺める群別岳の鋭鋒は、思わず息を飲むような凄みさえ感じる美しさである。また、眼下には大海原が広がり、石狩湾の向こうには積丹半島の山々、運が良ければ遥か北方に利尻富士を確認することもできる。初夏まで豊かな積雪に覆われた白銀のアルプスのような山並み、そして間近に迫る日本海の大展望をいっぺんに満喫できる点で、日本でも屈指の山岳展望と言えるだろう。
 また、浜益の山々には手つかずの大自然が残っているのが嬉しい。群別川本流を遡行した時には、次々と現れる美しい滝に沢登りの経験豊かなメンバーからも日高の沢に全くひけを取らないと感嘆する声があがった。春先の固雪のシーズンにはヒグマの足跡を見かけることが多く、登山ルート沿いに生えていた行者大蒜の茎も指のように太かったが、それだけ豊かな自然が残っている証だろう。しかも、180万都市札幌からわずか2時間足らずで、これだけ素晴らしい山々に出会えるのである。
 私もいわゆる日本百名山のうち、これまでに北海道内の9座を含めて全国74座に登ってきたが、全国的に見ても浜益の山々は間違いなく指折りの魅力に溢れていると確信している。

【ルート紹介(残雪期)】
 幌から神社前のふるさと林道または学校跡の林道幌床丹線を大阪山(533m)のほうへ進み、積雪の状況にもよるが合流地点付近まで車で入れる。ここからつづら折りの林道に沿って進むが、積雪がある時は林道をショートカットしても良い。大阪山をぐるっと巻いた広く平らな場所からスノーモービル進入規制の横断幕を通過して、広く緩やかな尾根を登って行く。ひと登りして標高750m付近の稜線に上がると浜益岳が姿を現し、振り返れば日本海の大展望が広がる。雄冬山を左手に見ながら雪原の斜面をトラバースしてゆくと浜益御殿の山頂へ。浜益御殿から少し下って、幅広い尾根の平坦な雪原を東に進むが、ガスがかかると迷いやすく、雪解けが進むと笹藪ぎが厄介だ。やがて右手に進路を変えて浜益岳の斜面に取り付いて稜線を上がると、視界には鋭く天に突き上げるような群別岳の雄姿が飛び込んでくる。さすが北海道のマッターホルンと呼ばれるだけの素晴らしい鋭鋒である。そして左側の急斜面に気を付けながら稜線を登りきれば浜益岳山頂だ。