公共建築 第172号 寄稿

ハコモノ冬の時代を迎えて

北海道財政課長  牧 慎太郎

1 施設建設抑制の動き
 地方自治体の財政危機を背景に「ハコ物」冬の時代が訪れている。各自治体が財源不足のため施設整備を抑制していることに加え、いわゆる国の骨太方針を受けてこれまで地方自治体のハコ物整備の有力な財源だった地域総合整備事業債を廃止する方針が打ち出されたのである。地域総合整備事業債と言っても耳慣れない方が多いかもしれないが、地方自治体が国の補助金を受けずに実施するふるさとづくり事業やまちづくり事業の財源として発行されてきた地方債で、その元利償還金の一定割合が地方交付税の事業費補正で措置される手厚い財政支援制度であった。地方交付税の事業費補正というのは、事業費の大小に応じて地方交付税の配分額を補正するもので、事業をすればするほど地方交付税が多く配分される仕組みである。地域総合整備事業債の廃止は、事業費補正の見直しとして地方交付税制度改革の大きな目玉となっている。
 竹下内閣のふるさと創生1億円以降、地方自治体の創意工夫を生かした事業の展開を支援していくため、国庫補助事業に伴う地方負担だけでなく地方単独事業についても事業費補正を導入し、元利償還金に交付税措置を講じたのが地域総合整備事業債である。地方交付税は国税5税の一定割合を原資としているが、かつてバブル期には国税収入も大きく増加していた。この時期、国庫補助事業にくらべて地方単独事業が大きく伸びているが、義務教育施設や社会福祉施設、公営住宅など国の補助対象施設が限定されているのに対し、地域振興のために各自治体が独自施策として文化施設やスポーツ施設などのハコ物建設を推進していくにあたっては、地方単独事業に地方交付税の事業費補正による財政支援措置を導入したことが大きなインセンティブとなった。バブル崩壊後も税収は伸び悩んだが景気・経済対策のため地方財政が動員され、後年度に交付税措置のある地方債を活用して地方単独事業を伸ばすよう国からも強い働きかけがあった。地方単独事業が伸びる中で、いわゆるハコ物が次々と建てられていったのである。北海道でも平成元年度には300億円余だった施設建設費(道費負担ベース)が年々増加し、ピークの平成10年度には1200億円を上回った。地方債の元利償還金の一定割合を交付税措置する事業費補正では、地方自治体が争って地方交付税の先食いをする状態となり、一部のハコ物には税金の無駄使いとの批判の声もあがった。
 しかし、相次ぐ景気・経済対策のために発行した地方債の元利償還金が重圧になる一方で、景気低迷や減税の影響による地方税収の落ち込みに加え、地方交付税の総額も伸び悩んだため、各地方自治体は単独事業抑制へと大きく舵をきっていった。北海道でも厳しい財政状況を受けて30億円以上の施設については改築を除き新規着工は行わないこととし、平成11年度以降は単独事業の抑制に転じて、平成13年度予算の施設建設費は約400億円とピークだった平成10年度の3分の1の規模まで圧縮している。こうした地方自治体の財政危機を背景とした単独事業抑制の動きに地域総合整備事業債の廃止が追い打ちをかける形で、ハコ物冬の時代を迎えているのである。

2 施設整備の仕組み
都道府県や市町村が建設する公共施設は、庁舎、学校、図書館、美術館、博物館、温泉保養施設、ホールなど多岐にわたっており、その整備にあたっての財源も様々である。一般的に地方自治体が施設整備をする際の財源としては、国からの補助金、外部から調達する借入金である地方債、そして地方税、地方交付税などの一般財源のほか分担金・負担金、寄付金などが想定される。
(1)補助金
国庫補助対象となる施設を整備する場合、通常、地方自治体は国庫補助金を申請することになる。補助事業に要する経費のうち補助金交付額の算定の対象となる経費を補助対象経費といい、補助金交付額は補助対象経費に補助率を乗じて算出される。全体事業費の内訳は、設計費、用地費、施設費、設備費、附帯事務費であるのに、補助対象となるのは基幹的な施設整備費のみといった形で補助対象経費は絞り込まれている。また、補助対象となる経費であっても補助対象面積や補助単価に上限が設定され、地方自治体に超過負担が生じることが多い。制度上の補助率は2分の1とされていても、補助限度額で頭打ちされてしまい、全体事業費に対する補助金の割合は1〜2割程度というケースも少なくない。また、国庫補助対象施設であっても、予算枠の関係から希望する時期の採択が難しい場合もあり、地方単独事業として事業着手に踏み切るケースもある。
(2)地方債と地方交付税
 国庫補助事業の地方負担分、そして地方単独事業については地方債、地方交付税による財源措置の対象となるものがある。国庫補助の対象とならない施設でも地方交付税による支援があれば自らの税収による負担が少なくて済むし、地方債の対象になれば財政負担も後年度に平準化されることになる。かつて地方交付税の原資となる国税収入が潤沢だった頃は、施設建設時に現年度の事業費補正で地方交付税が配分されるケースも多かったが、最近は税収が落ち込んでいるため、後年度に地方債の元利償還に対して交付税措置が講じられるケースが多い。地方債による財源措置については、起債充当率と交付税算入率がポイントとなる。起債充当率とは、対象経費のうち地方債を充当できる割合であり、通常75%とか90%というふうに定められ、景気対策の補正予算などに係る事業の場合は充当率100%とされることもある。交付税算入率のほうは元利償還金に対する交付税措置の割合であり、合併特例債や過疎債のように70%という高率のものもあるが、地方単独事業による施設整備に活用された地域総合整備事業債の場合は、財政力指数に応じて30%〜55%が交付税措置されていた。ただ、先述したとおり地方交付税の事業費補正については、事業を多くやったところほど地方交付税の配分が増える仕組みに批判もあり、事業費の大小にかかわらず人口や面積など静態的な指標に応じて配分される方式へ振り替える見直しが検討されている。
(3)補助金・地方債に関する手続き
地方自治体が施設を建設するまでの各年度における流れとしては、基本構想、基本計画、基本設計、実施設計、建設事業費という形で予算が計上される。美術館、博物館、ホールなどコンセプトが重要な施設では基本構想から練り上げていくが、学校のように定型的な施設では、基本構想などは省略され、いきなり設計に入ることもある。一般的なケースでは、国庫補助の対象となるのは施設建設の本体工事、設備などに限られるが、地方債については実施設計から起債対象になり、本体工事のほか関連する人件費、事務費等も対象となる。いずれも施設内容が固まる実施設計に入る前年度中には関係省庁と事前に協議する。補助金については、補助金交付申請を行い交付決定を受けて着工し、必要があれば変更交付申請・決定が行われ、施設が完成すると実績報告書を提出し、完了検査を受けて補助金額が確定する。地方債についても補助金交付申請と並行して起債計画書の要望額一覧表を提出し、許可予定額の通知を受け、充当結果一覧表を提出。起債許可を受けて借入手続きをとる。建設が複数年度にわたる場合は、各年度ごとに補助金、地方債の手当が行われる。国庫補助金の交付を受けた場合や地方債に政府資金が入っている場合には、後年度において会計検査が行われ、施設の用途変更を行う場合には、補助金の返還や地方債の繰上償還が必要となる。
(4)施設の管理運営
 施設が完成すると公の施設については設置条例が制定され、供用が開始されることになる。公共施設が民間施設と大きく違うのは税金で建てられることから、将来の改築に備えて内部留保を積んでいくための減価償却という概念が希薄なことである。ただ、維持管理のランニングコストについては、国からの支援も期待できず毎年度の予算枠も厳しいため、施設建設にあたっては建設費のコスト削減とともに将来的な財政負担の軽減という観点が大きな関心事となる。施設の管理運営は直営方式にするのか委託方式にするのか。利用者から負担をとる場合には、使用料(地方自治体の収入)にするのか利用料金制(管理団体へ直入)にするのか。30年も経たないうちに改築要求が出てくるような施設でなく、50年、100年スパンで長持ちする施設はつくれないのか。採算性が厳しく求められる民間施設にくらべて、公共建築ではランニングコストをあまり考えたとは思えない立派な外観の施設も見受けられるが、将来的な財政負担も見据えたコスト意識が公共施設についても強く求められている。

3 施設整備に関する新しい動き
 これからの公共施設整備について、少し新しい材料を拾って紹介しておきたい。
(1)PFI方式の活用
 民間資金を活用し、効率的な管理運営ノウハウを導入するためPFIという手法が脚光を浴びている。地方自治体が発注する施設は営繕単価が高いせいか同じような民間施設と比べてどうしても割高になりがちである。また、施設の管理運営にあたっても、民間のノウハウを導入したほうがうまくいっているケースが多い。PFI方式で施設を建設した場合の地方自治体に対する財政措置としては、地方自治体がPFI事業者に対し、施設整備時に整備費相当分を支出する方式と後年度に整備費相当分を割賦払いや委託料などの形で分割して支出する方式が想定されるが、いずれの方式でも何らかの形で整備費相当分の全部又は一部を地方自治体が負担する場合、当該負担額の合計額(用地取得費を含まず、金利相当額を含む。)の20%に対し均等に分割して一定期間交付税措置を行うこととされている。これまでのハコ物は建設後の施設運営コストの検討が十分なされず、建設してから予想外の一般財源負担に音を上げるケースも少なくなかった。今後は、あらかじめ建設費の割賦払い相当額と管理運営費について地方自治体が毎年度負担する金額の上限を示した上で民間事業者を募ってコンペを行いプロジェクトを固めていくような手法も検討に値するのではないか。
(2)合併特例債の活用
これまでハコ物整備の有力な財源だった地域総合整備事業債は廃止されるが、合併した市町村については有利な合併特例債の活用が可能になる。充当率95%、交付税算入率70%で、所要財源の3分の2以上が地方交付税で措置されることになる。学校施設などは少子化により新設の件数は減少が見込まれるが、市町村合併をきっかけとした学校統合等による施設改築の需要は今後も出てくることが見込まれる。また、地域総合整備事業債が廃止されるかわりに、IT化、防災などの政策課題については、新しく地域活性化事業債(ただし交付税算入率は30%)が創設されることとなった。
(3)コミュニティーボンドの活用
 その地域の住民が施設建設のための公募地方債を購入する制度が新しく導入される。例えば、地方債の利率は低くても是非その地域に必要な施設だとして地域住民が地方債を購入し、施設建設の財源を調達することも可能になる。地方債も平成18年度から許可制が廃止されて協議制に移行し、交付税措置のない地方債については国の同意がなくても各地方自治体が議会へ報告して発行できるようになる。市場公募債として広く市場に流通させるだけの発行量が確保できない地方自治体についても、地域で支える施設整備の一形態として今後コミュニティーボンドの活用事例が出てくることが予想される。
以上、施設整備の財源に関する最近の動きを中心に紹介させていただいた。公共施設は税金でつくられるものであり、住民にとって本当に必要なものを最小限のコストで整備していきたいものである。