きょうは、チャレンジプログラムフォーラム「地域通貨でまちづくり」というテーマで、地域通貨をツールとして何か兵庫県が元気になるようなことを考えられないかということについて、お話をさせていただきます。

1  私と地域通貨との関わり
実は私が兵庫県庁に来たのはこの4月からでございまして、たまたまそれまで地域通貨に関わることが多かったものですから、今日こうしてお話をさせていただく機会をいただきました。どうもありがとうございます。
まず、自己紹介も兼ねまして、私自身の地域通貨との関わりについて申し上げますと、最初私が地域通貨に触れたのは、今から7年ぐらい前のことです。1999年、私は北海道庁に勤務しておりまして、その前年、北海道拓殖銀行が破綻しました。絶対つぶれないと思われた銀行が破綻して、北海道経済はガタガタになっていました。この経済状況を何とかしようということで、当時北海道では、補正予算を組んで、ものすごく大量の公共事業をやりました。
ところが、北海道は、もともと財政が相当厳しく、公共事業を大量に実施して景気が回復し、税収が伸びてくればいいのですが、いくら公共事業を実施しても、全く経済が浮上してこない。税収が伸びない。このままで大丈夫かという危
機感が広がった時期に、地域通貨が北海道内のあちらこちらから、タケノコのように出てきたという記憶がございます。

2 地域通貨のなりたち
全国的に見ても、地域通貨の産声が上がり始めた時期というのは、だいたい2000年前後だったと思います。その頃はどういう時期だったかといいますと、よく皆さんご存じのバブル景気が崩壊した後の時期です。昭和60年代から平成
2、3年ぐらいまで、日本経済は絶好調で、とにかく株も上がるし、土地も上がるし、みんな景気がいいという時代でしたが、そこから真っ逆さまにバブル崩壊となりました。
ただ、一気に不況に突入したら大変ですから、政府は一生懸命、補正予算を組んで、公共事業を行うなど景気の下支えをしようとしました。しかし、もはや世の中の構造が変わっており、昔なら3年ぐらい経ったら景気が回復する循環経済だったのですが、世の中は世界経済のグローバル化により、世界中の国々の経済と日本経済がどんどんリンクしていく中で、日本国内だけで景気対策、公共事業を実施しても、すぐ景気が良くなるような単純な時代では、なくなってきています。政府も自治体も借金をしながら、景気回復に向けた財政出動を続けることも難しいだろうという時代になって、私は全国各地で地域通貨が出てきたのではないかという印象を持っております。
「円」や「ドル」といった法定通貨は、どこでも、だれでも、いつでも、何にでも使えるお金だとすると、地域通貨というのは、一定の地域、コミュニティ内のメンバーだけで流通するお金のことですが、そうした地域通貨が出てきたのは、日本でいうとバブル崩壊後、公共事業や景気対策を続けられなくなった時期ということです。
歴史的に世界を見ると、多くの地域通貨が出てきたのは、第一次世界大戦の後、世界恐慌の時期です。いわゆるブラックマンデーと言われた株価暴落がありましたが、その頃、世界各地で地域通貨が誕生しました。
例えばひとつ、私がとても地域通貨はおもしろいなと思ったエピソードを紹介しますと、その当時、オーストリアのヴェルグルという炭坑の町がありました。戦時中、石炭はものすごく需要があり、どんどん掘っていたのですが、戦争
が終わって供給力が大きすぎると、物余りになってきます。デフレ経済です。そうなると、石炭の価格は暴落。石炭の値段が下がると、石炭を掘っても赤字になりますから、資本家は、石炭を掘るのをやめてしまいます。そうすると、炭坑で働いている人たちは、働けず給料ももらえません。給料がもらえなくなると、その人たちが物を買っていた八百屋さんや、肉屋さんが困ります。次には、商品を仕入れてお店屋さんに納入していた卸業者や、生産者の人たちも困るということで、みんな困ってしまったのです。
要するに、金詰まりとでも言いましょうか。お金というのは、本来、物やサービスをぐるぐる回す仲立ちの役目を果たすものですが、いわゆるデフレになると金詰まりで、お金が本来の機能を果たさなくなります。
こういう時に、実はヴェルグルの町役場が、おもしろい地域通貨を考え出しました。日本語に訳すと『労働時間証明書』といった意味の地域通貨です。
労働者は、例えば1時間炭坑で働いたら、その分の地域通貨をもらいました。もちろん町の人も地域通貨を信用して、地域通貨で野菜を売りましょう、肉を売りましょう。仕入れもそれで可能になりました。
その地域通貨は町役場が発行するのですが、毎月額面の1%の金額のクーポンを役場から買って、その地域通貨に貼らなければ使えないというもので、100カ月経てば役場の負担額はゼロになるという仕組みでした。
2、3年経って石炭の価格が上昇してきたとしましょう。そこで掘り続けていた石炭を売ったらお金が入ります。一方で、みんながクーポンを貼って地域通貨を使うので、町役場の負担はどんどん軽くなっていくという魔法みたいな話で
す。
実はこれは魔法でも何でもなく、その石炭を売って得られたお金は、実は労働者の皆さんが炭坑で働いたことによる付加価値です。石炭価格がたまたま暴落することによって、本来なら働ける人たちが失業者になってしまいますが、そのような時に、地域通貨という一つの道具を取り入れることにより、失業者の皆さんが働く場を得て、その労働によって生まれた付加価値が、石炭価格が回復してみれば、きちっとお金になって返ってくるというわけです。
「円」や「ドル」といった法定通貨がちゃんと本来の役割を果たさなくなるような時期に出てきたのが、地域通貨です。しかし、第一次大戦後に生まれた地域通貨は、その後どんどん消えていきました。どういう消え方をしたかという
と、今、地域通貨は金詰まりのときに出てくるというお話をしましたが、その後、世界的にインフレになったわけです。インフレは要するに物に比べてお金が多過ぎる状態です。紙幣なんてどんどん刷れば、ただみたいなコストでどんどん発行できます。当時、第二次世界大戦に向けて、ドイツなどはどんどん戦車をつくり始めるし、一方、アメリカでは、大規模な公共事業をやりました。それがニューディール政策です。政府が借金をして、大きなダムをつくるというもの
で、建設に携わる労働者の皆さんに、政府はドル札を大量に刷って賃金を支払い、財政赤字を抱えながらでも、広くお金が行き渡るようにするというものです。
要するに、巨大な公共事業をやる。あるいは戦争に向かってどんどん突き進む。戦争なんて弾を撃ったり、戦車を壊したり、ものすごい消費ですから、そういう需要を政府が創出する中で、地域通貨が飲み込まれていったということで
す。
一方、日本国内で地域通貨が出てきたのは、バブル経済が崩壊した後です。政府は借金をしてお札を刷って大量に公共事業を実施し、国民にお金がぐるぐる回るように考えましたが、いつまで経っても景気が回復しません。もうこれでは財政の持続可能性がないということで、大きな借金をしてまで公共事業を行うことはやめましょうという時代になったその時期に、全国各地でタイミングを合わせるように地域通貨がでてきました。
もう一つ、地域通貨で私が今着目しているのは、地域コミュニティの活性化という観点です。要するに、人と人とのつながりといいましょうか、かつての農村社会では本当に地域コミュニティがしっかりしていて、その中で人々の暮らしが
お互い支え合う中で成り立っていました。今、これがだんだん弱くなっているのではないでしょうか。コミュニティにおける人と人とのつながり、地域のきずなを復活させるような手だてがないかという流れの中で、地域通貨が出てきているのです。私は、これがもう一つの地域通貨の流れだと思っています。

3 人と人とをつなぐ道具
少し話は変わりますが、私の趣味は山登りです。ホームページを持っていますので、私の名前で検索していただいたら出てきます。さて、新潟県の奥只見ダムの奥に今はもう魚沼市に合併されてしまいましたが、湯之谷村という村がありました。2年前、合併する前に最後の山開き登山を住民も一緒になってやりますという話がありまして、私もその村まで出かけて行って、一緒に村の人たちと山に登ってきました。その時に聞いた話ですが、この村は本当に山奥の村で、今でこそ国道を除雪するのは当たり前ですけれども、昭和20年代、30年代は湯之谷村の奥の集落では、冬になると交通は途絶していました。下の町におりて行くというのは、お正月に新酒を飲みたいということで、かんじきを履いて1日かけて下の町までおりて行って、お酒を買う時ぐらいで、あとは12月から3月中旬ぐらいまで、完全に雪の中に閉ざされます。そこの集落でどうやって暮らしをしていたかというと、例えば電気が壊れれば、修理する人がいます。集落の中の道の除雪は、みんな自分たちでやる。誰かが狩りに行くとなれば、その子供さんは、近所の人たち、あるいはおじいちゃん、おばあちゃんが面倒を見る。泥棒が出るかといえば、みんな顔見知りですから、そもそも泥棒はいない、そんな生活です。
そういう世界では、別に税金のお世話になっている訳でもないし、さらに言えば、お金すら必要ではなかったのです。みんな顔見知りで、例えば電気工事をしてもらったり、ちょっとお手伝いしたりといった、みんなで助け合う世界で
す。これだけコミュニティが密になると、実はお金は要らないのです。
ですから、地域通貨に取り組まれているグループでは、本当にコアなメンバー間で、人数が少なくてみんな顔見知りだったら、お互い助け合い、お世話になったり、あるいはお世話してあげたりするのに、別に地域通貨なんか要らないという声が出てくるのです。
コミュニティ再生というときに、決まり切った固定メンバーで少人数ならば、実は地域通貨など要らないのだと思います。逆に新しいコミュニティをつくり上げる時には、人と人とのやりとりといいますか、何かしてあげたり、あるい
はお返しをしたり、このやりとりを目に見えるようにしてやる必要が出てきます。
「ありがとう」という気持ちを表すのに、例えば葉書で礼状を書きますよね。礼状か、あるいは地域通貨のポイントか、ということなのですけれども、だいたい私が関わった地域通貨では、やりとりする時には、単にポイントをやりと
りするだけではなく、必ずコミュニケーションが伴います。メッセージと一緒にポイントを送る方が、非常に多いと思います。
そういう意味で、コミュニティはコミュニティでも、例えば一定の地区の自治会、昔からメンバー限定、顔見知りで、もう十年来同じメンバーというような、そういうコミュニティとは異なる新しいコミュニティを形成するときに、人と人とをつなぐツールとして、この地域通貨というものが使えるのではないでしょうか。
私はその後、北海道庁から総務省に異動しましたが、その時、政府が地域再生を旗印にして、借金をして公共事業の補正予算を組んで景気対策をすることはもう財政的にできないから、知恵と工夫で日本国内を元気にできないかということで、各省庁がいろんなアイデア、知恵を出し合ったのです。総務省の自治行政局は、コミュニティ施策を担当しているところですが、そこで打ち出したのが、ICTを活用した地域通貨です。地域通貨といえば、よく紙でやっておられ
るところが多いと思います。皆さんの中で携帯電話を持っていない方はほとんどおられないと思いますが、これからはICTの時代です。ITとICTの違いをちょっと解説しておきますと、ITと言ったら、いわゆる情報技術。ITとICTの違いは、IとTの間にCが入っていることです。Cとはコミュニケーションです。ITというからITバブルになったと私は思っていまして、ITゼネコンとかよく言いますよね。これからは情報通信技術の時代だといって、政府が何をやったかというと、大きなコンピュータや光ファイバーを導入しました。結局、公共事業をやったということです。そうではなくて、本当に重要なの
は、コミュニケーションの道具としての、情報通信技術です。日本ではITと言いますけど、ヨーロッパに行ったらみんなICTと言います。
人と人とをつなぐ道具としての情報通信技術を使って、地域通貨というものを何とかうまく回していけないか。もう一度、コミュニティを新しい形で再生していくことができないか。何とかこの地域経済を活性化するツールとして使えない
かということで、当時はいろいろ取り組みました。
 地域通貨を考える前に、原点に戻って、まずお金とは何かということをまとめてみると、お金のルーツというのは、私は2つあると思います。地域内、コミュニティの中で回るお金と、それから、地域外通貨として、全世界中を回っているお金です。大きく分けると歴史的にはこの2つがルーツとしてあったのかなと考えています。
このうちのコミュニティの中で回っている地域内通貨が、地域通貨につながっていると私は思っているのですが、その特徴について例を挙げて申しますと、ヤップ島の大きな石のお金はご存じでしょうか。また、世界には貝殻のお金もあります。ヤップ島の大きな石の地域通貨は、例えば、Aさんが家を建てたとすると、Bさんに家を建ててもらうということによって、大きい石の所有権はAさんからBさんに移ります。その大きな石は、あまりにも大きいために持ち運びできないので、石自体は同じ場所に置いたままです。ただ、地域コミュニティにおいて、あの石の持ち主はAさんからBさんに移りましたと、みんなが認識していればいいことです。
貝殻のお金というのも、結局そういう目印でしかないのです。ですから、例えばある村で貝殻のお金が流通している場合、隣の国のある島で同じ貝が大量に採れたから、よその国の人が大量にその貝殻を持ってきて、それで村の野菜を売ってくださいと言っても、売ってくれません。貝殻のお金は、地域コミュニティの中の助け合い、物とサービスの交換の目印なのです。あくまで交換の目印に過ぎず、貝殻自体に別に価値があって、お金として使っているわけではありません。まさに助け合いの関係です。しかし、この関係はある程度人数が大きく増えてきた時には、なかなか機能しにくくなります。

4  「円」や「ドル」との役割の違い
一方、地域外通貨は、地域エリアを越えた、まさに昔でいうと、シルクロードをたどってヨーロッパの商人がアジア、中国まで来た、そういうグローバルな貿易や市場経済で使われるお金です。このお金は、金とか銀、それ自体が価値を持つものから始まったと思います。
種子島に鉄砲が伝来したことは、皆さん歴史で習われたと思いますが、なぜ種子島に鉄砲が伝来したかというと、理由に一つは、当時の日本が、ものすごい銀の産出国だったことです。その後、中国が銀本位経済に移りましたが、あれは日本で採れた銀が元手となりました。島根県に石見銀山という銀山がありまし
て、今度世界遺産になります。その石見銀山を中心として、当時、世界の銀の3分の1は日本で生産されていました。その銀を求めて、銀と交換してくださいと、いろんなものを外国人が持ち込んできたわけです。そういう銀とか金とか、それ自体が価値を持つお金というのは、コミュニティを超えてやりとりをするときのお金になっていきます。
実は、このグローバルなお金というのが、今の「円」や「ドル」といった法定通貨で、どんどん力を増していくわけですけれども、ではこの地域外通貨にほとんどの地域内通貨が飲み込まれているような状況で、果たしてそれでいいんだろうかという疑問点もあります。
「円」「ドル」といった法定通貨だけで、世の中を回していいのかという話ですが、例えば一つ申し上げますと、今世の中のお金の流れについて考えると、お金とはもともと物を買ったり、サービスを受けたり、提供したりするための、要するに物とかサービスのやりとりの仲立ちするのが、お金だと皆さん普通は思われるでしょう。ところが、今世界に流通しているお金のうち、実際に物とかサービスのやりとりで使われているのは1割以下なのです。世の中のお金の流れの9割以上は、実はお金対お金の取引です。ある国とある国の金利の違いであるとか、通貨交換レートの変動であるとか、そうした利ざやで儲けるヘッジファンドは、まさに象徴的な存在です。お金とお金の価値の差とか、物価の差、そういうすき間をねらう投機資金の流れは、ものすごく大きくなって、それはもう世界に流通しているお金の9割以上で、実際、本来のお金の役割である物やサービスの交換に関連するものは、1割以下なのです。
さらに、お金には利子がつくのですが、利子がつくというのは、お金の性質の中でも非常に特徴的で、私自身がちょっと疑問を持っている部分でもあります。「円」や「ドル」だけで、人と人とのやりとりがすべて成り立つかというと、やはり市場経済、競争社会になじまない世界があって、そうした部分は、「円」や「ドル」のやりとりの中で、切り捨てられている面があると思います。
そうした部分を地域通貨で何とかできないか。二つ挙げてみると、一つは、たくさんある眠れる地域資源を掘り起こすことが、地域通貨でできるのではないかということ。もう一つは、地域通貨は人と人とをつないでいく機能を持っているのではないかということです。「縁の切れ目」とよく言いますが、お金というのは、清算に使います。だいたい離婚をする時でもそうですし、けんか別れしたときもそうですけれども、お金というのは、人と人のつながりをむしろ切るとき、最後に「円」で清算をします。人と人とを決してつなぐものではない。人間関係、人と人との関係をぶちっと切る時、お金で清算しましょうという時に使われるのが「円」だとしたら、逆に地域通貨は人と人とをつないでいく機能を持っているのではないかと私は思っています。

5 団塊の世代を地域コミュニティへ
そういう意味では、コミュニティ意識の涵養を図るのに必要なもの、眠れる資源を掘り起こして、しかも人と人をつないでいくものとして、地域通貨を使えないかということが、我々の願いです。
さて、これから団塊の世代の方々が、どんどん退職されるようになります。例えば、Aさんは、定年退職をしました。定年退職しても、最近は家でゴロゴロしている人が、結構多いです。ゴロゴロしてテレビを見てばかりいたら体の調子も悪くなるし、病院に行って医療費も高くついてしまう。このAさんは地域通貨を縁にして、防犯パトロールに参加するようになりました。わが家にも小学生の娘がいるのですが、知らないおじさんに声をかけられても「無視しなさい」と言っています。「無視しなさい」と教えなければいけないのは、とても悲しいことです。Aさんが、防犯パトロールに参加して、お揃いのユニフォームを着て腕章をつけていると、安心できるおじさんたちのグループだということで、子供たちともあいさつを交わすようになります。ここで少しコミュニティ意識の涵養が図られるわけです。地域の安心・安全にもつながります。また、パトロールに参加して、地域通貨をもらえれば、それを持って美術館にも行けます。ところで、美術館というのは、兵庫県内ではそうでもないかもしれませんが、結構閑古鳥が鳴いているケースがあります。しかし、お客さんが少ないからタダにするかというと、美術館に来てゴロッとソファーに寝転んで涼もうとする人に来られたら困るから、タダにするわけにはいかない。ただ、ボランティア活動をされるなど意識の高い方々には来てほしい。そうした方々には、市立美術館や県立美術館で芸術を鑑賞していただきたい。そういう意味では、意識の高い方々には、無料でも来てほしいということです。
あるいは、お店で買い物をする機会があったとします。今は兵庫県内にも、ものすごく巨大なショッピングセンターができていますけれども、やはり地域の商店街で地域通貨が使えますよということなら、そこに行ってみようかなという気
持ちになります。家でゴロゴロするのをやめて、外出する機会が多くなり、ちょっと靴がすり減ったので新しい靴を買おうということになれば、経済効果も出るでしょう。
これは今回新作で用意した資料ですが、今、地域通貨が求められている時代背景として、何があるかということです。これは総務省の見解とか兵庫県庁の見解ではなく、私の個人の見解ですけれども、二つの大きな流れがあるのかなと思っています。
一つは、2007年問題への対応です。皆さんもよくニュースなどでも取り上げられているのでご存じかと思いますが、2007年問題の大きな特徴というのは、一つは日本の人口が減り始めるということです。これまで日本の人口は、どんどん増えるものでした。ところが、いよいよ減少局面に入ります。兵庫県は少し遅れて、数年後、人口減少社会になります。
また、少子高齢化が進むということは、これまで税金を納めていた人たちが、お年寄りになって年金をもらったり、あるいはお年寄りになると病院に通ったりすることも増えますから、むしろ税金で支えられるようになります。この税金で支えられるようになる人たちが、急激に増えるのが2007年からですね。戦後60年経って、プラス2年で2007年です。1945年に第二次世界大戦が終わりましたけれども、第二次世界大戦が終わって、2、3年という時期ですね。この頃、日本の子供は1年間に何人生まれていたか。ちなみに今の出生数は、概ね106万人ぐらいです。およそ日本全国1億2,000万人の国民の数に対し、1年に生まれる子供の数は、およそ100万人ちょっとということです。
ところが、この団塊の世代は、ピーク時には1年間に何と270万人が生まれました。今の3倍近くです。この団塊の世代が、これまで日本の高度成長を支えてきました。今は派遣社員やフリーターなど、雇用形態も様々ですが、この世代は、だいたい企業に正社員として入られた方々です。こうした方々は、総じて高い給与をもらって、たくさん税金納めていました。それが一挙に60歳を超えて、さらに年金をもらうようになるということです。若い頃に比べれば、病院へ
行く回数もふえるかもしれません。税金をたくさん納めていた人が、一挙に税金に支えられる側に回ったら、日本の国や自治体の財政は、年金は大丈夫なのかということが大問題なのです。
これからの10年、20年、どう日本社会を支えていくかということになると、やはりこの団塊の世代の方々、今まで会社人間として会社コミュニティに属していた方々にもう一度地域に戻ってきてもらう必要があります。団塊の世代の方々に地域コミュニティの中に入っていただいて、地域の活動をもう一度支えていただくことが、必要ではないかと思います。これはいわゆる新しい公の形成ということですが、例えば子供の安全が脅かされているというときに、税金で警備員を雇ったら、これは高くつきます。ところが、地域の皆さんで防犯パトロールしましょうということになれば、別に税金を使わなくても地域の安心安全は守れるのではないかと思います。
こうした団塊の世代には会社人間として、例えば営業マンだったり、あるいはコンピュータを駆使したり、非常に個人的には能力の高い方もたくさんおられます。日本社会は、農村部では地域単位でコミュニティを形成していたものが、特に都市部ではそうなのですが、今では会社を中心としたコミュニティになっているのです。会社がコミュニティになっていることをわかりやすく説明するには、結婚式やお葬式を考えてみてください。そこに誰が来るかというと、会社の人がたくさん来ます。これがまさにコミュニティですね。
ところが、会社コミュニティを維持してきた日本の会社も、グローバル化の中で、だんだんドライになってきています。会社をやめたら会社コミュニティから出ていってください、だんだんそういう時代になってきています。そういう時に、会社を退職した方々が、もう一度地域コミュニティに戻れるかどうかという時、地域に入りやすくなるようなツールは何かないかなと考えてみましょう。いろんな技術・能力を持った方々がおられる。そうした方々が、地域コミュニティにスッと入りやすく、とけ込めるようなツールとして何があるかという時に、私は地域通貨というものが一つ有効なツールになるのではないかと考えています。
それから、もう一つは、持続可能な地域社会の形成ということです。先ほどちょっと触れましたが、例えば「円」という通貨がありますけど、日本の通貨当局は、今では日本のことだけ考えて「円」に関する施策が展開できないです。世界各国の通貨とリンクしているので、日本の国のお金なのですが、日本の政府や日銀の考えだけでは動かせないというのが今の実態です。それでは「円」とか「ドル」をヘッジファンド、投機資金のやりたい放題に任せて果たして良いのかという話になります。

6 持続可能な社会の形成に向けて
それともう一つ。「円」や「ドル」といった通貨の悪いところとして、あまり環境に優しくないのではないかと私は思っております。例えば、スーパーで野菜を売っています。一つは非常に色のきれいな中国産の野菜。もう一つは形の曲がった地元の国産野菜。スーパーでは安い中国産を買ってしまう、これは一見合理的な行動です。しかし、その野菜は、恐らく農薬を使って栽培され、たくさんの二酸化炭素を排出してガソリン、石油を使いながら輸送されてきて、食べたら健康に良いかどうかもわからないようなものなのです。それよりも地元でとれた野菜を食べる方が望ましいのではないでしょうか。
私はGDP、GDPと、経済の数字を伸ばすことだけにとらわれるのは、経済学者の悪い影響だと思っています。今の小泉政権は良いところもあるのですが、アメリカ帰りの経済学者が多いなというのが私の感想です。経済だけで世の中を割り切る競争原理、市場原理だけに任せるわけにいきません。例えば今の話でいうと、地元の有機野菜を買ったら、地域のおじいちゃん、おばあちゃんのお小遣いになって、地域で使ってくれるかもしれません。中国から野菜を買ったら、結局、二酸化炭素を排出したり、石油をムダに使ったり、農薬を使ったりする方にお金が回ってしまいます。しかも、なぜ安いかというと、中国の安い労働力、これが安さの源泉です。格差があるから、そういうことが成り立っている。そんなことをいつまでも続けるのかという話だと思います。
やはり地域の資源を有効活用して、できれば地域の中でうまく循環するシステムが必要です。例えば、今、水害が非常に多いですね。山の木なども台風23号で倒れました。倒れているのは、ほとんど人工林です。昔からの広葉樹の自然林だったらそんな倒れたりしません。杉を植えても、ちゃんと枝打ちして間伐して、落ち葉もたまり過ぎないようにしたほうがいい。昔は田舎でもプロパンガスが入っていないころは、みんな山に焚き木を取りにいきました。地域の中でうまく循環させていく社会というものが、かつての日本にはあったと思います。
地域通貨でしか買えない物があれば、地域通貨もうまく回るのではないかという見解についてですが、よほどそのメンバーの方々が、そのコミュニティに帰属意識が強ければ良いのですが、そうしたメンバーだけでなくなってきた場合、地域通貨でしか買えないとされていたものを「円」で高く買いますよという人が現れた時に、「円」で売ってしまう人が出てきたら、地域通貨というものは、うまく回らなくなります。やはり地域コミュニティを守るんだという気持ちが重要なのだと思います。サステーナビリティがある、持続可能な地域社会を形成するために、地域に対する思いのある人たちがどれだけいるかということが、恐らく地域通貨が成功するかどうかの一つのポイントになってくるのではないかと考えています。

7  「貯める」のではなく「使う」ための仕組み
先ほども触れましたが、お金には、三つ機能があると言われています。一つがモノ差しの機能。二つ目が交換の仲立ちをする機能。それから、三つ目が貯めて増やす機能です。地域通貨については、いわゆる法定通貨「円」や「ドル」と違って、利子がつく、貯めて増やすという機能をなくしてしまったらどうかというのが、我々の考え方です。利子がついて増えるという機能があるばかりに、言ってみればお金持ちはますますお金持ちになるし、貧乏な人はますます貧乏になる。貯金に利子がついたらお金が増える。借金をしたら利子で借金がますます膨れる。こんな経済原理だけでやっていては、なかなかコミュニティや地域社会を守る道具としては、「円」は恐らく使いものにならないだろうと思います。むしろ、さきほどのヴェルグルの地域通貨のように減価して、持っているだけなら、どんどんすり減っていくような地域通貨にしたら、これは非常に大きなメリットが出てくるのではないかと、私は思っています。
例えば、1カ月たったら1%ずつ価値が下がってくる。こういう地域通貨であれば、みんなこれを早く使おうとします。もう一つ言えば、発行している当局からすると、減価を掛けていったら、発行コストが最後はタダになります。NPOでも、あるいは自治体でも、発行主体にとって、何といっても負担が大きいのは問題です。ただ、うまく減価が導入できるかというと、地域通貨を通帳方式でやっているところは割と減価を取り入れていますが、コイン方式や紙幣方式ではなかなか難しいものですから、やはり情報通信技術の活用が有効だと思います。それも全員一律に減らすのではなくて、税金でも累進課税がありますが、地域通貨をたくさん持っている人は、例えば12月のクリスマスをもって、20万ポイントを超えている人は、その時点で全部カットします、あるいは10万ポイントから20万ポイントまでは半分にします、そういう地域通貨をつくったとします。そうすると、それまでに早く使おう、年末大売り出しに近所の商店街で使おう、それでも余るのならば、減らされるぐらいだったら、いつも隣のおばあちゃんは車の送り迎えで地域通貨を使っているから、隣のおばあちゃんにあげようなど、いろんな使い方が出てきます。お金は、自分の暮らしに必要なものを買うにはどうしても必要なものですが、自分の暮らしの身の丈を超えたお金、投機資金が一番そうですが、5億も10億も100億も持っていて、自分一人でどんなに良いものを着ても、どんなにおいしいもの食べても、使い切ることができないお金までも、やはり追いかけてしまう人がいる。まさにマネーゲームです。お金を稼ぐことが、ゲームになってしまっています。そうしたゲームに使われているような通貨と、本当に暮らしに必要な人と人との助け合いの循環をつくり上げるための地域通貨、これは分けて考える必要があります。地域通貨では、自分の生活に必要なもの以上は要らない。もっと言えば、年金と地域通貨があればお年寄りも安心して地域社会で暮らしていける、そういう姿を我々は目指すべきではないかというふうに考えております。
先ほど、経済的な活性化を目指す地域通貨とコミュニティの活性化を目指す地域通貨があると申し上げましたが、コミュニティ活性化型は、実は交換の機能だけで十分なのです。交換したときにありがとうの代わりにポイントを差しあげる。さらに経済活性化まで結びつけようとするならば、私はモノ差しの機能というのもあって良いのではないかなと思っています。
地域通貨も仲間内同士の助け合いだけでなく、経済活性化につなげるとしたら、やはり民間の事業者の方々にも喜んで受け入れてもらわなくてはいけません。どういう業種ならそれが可能なのか、整理してみました。先ほど美術館の話をしましたけれども、飛行機の空席や、ガラガラの美術館、こうしたものは資源のムダ遣いです。眠れる資源を掘り起こすというのが、地域通貨の大きな目的だとしたら、やはり映画館、温泉などが有望でしょう。こういう施設は何人お客さんが入ろうが、これは満員になってお断りというなら別ですけども、追加コストがかからない。こういう施設は、非常に地域通貨を受け入れやすいでしょう。
それ以外では、人件費率が高いところですね。例えば、床屋さんなどで家族経営しているようなところです。こういう店は、どうせお客様を待っているのなら、地域通貨を受け入れてもお客さんが増えた方が、長い目で見ても収益が上がるということです。
ちょっと厳しいのは、物販ですね。「円」で仕入れをしておいて、地域通貨で売ったら、これは「円」ベースでマイナスが出ます。だから、物販はちょっときついですが、例えば仕入れでも、有機野菜やリサイクル商品など、地域通貨で仕入れもできるようになれば、地域通貨は、大きな地域経済の循環を促進する道具になっていくのではないかと思います。
あと、やはり地域通貨の良いところ、「円」と違うところは、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションがあるということです。長い間のお得意さんの世界ですね。よくソーシャルキャピタルという言葉を経済学や社会学で使うのですが、損得の関係、経済的なプラス、マイナスを考えても、お互い信頼できる関係ができ上がっている信頼社会は、結局コストが安くなります。それだけ安心してやりとりができるということです。突然、詐欺をしたり、人をだましたり、インターネットのオークションなどでも、やはり悪いやつが出てきます。こういう地域の信頼関係というもの、ソーシャルキャピタルが非常に大きな地域の財産だというふうに考えた時、コミュニティを育て上げる道具として、地域通貨は有効ではないかと考えます。

8 先進的な事例
@環境に着目した取組み(福岡県北九州市)
最後に、各地の取り組み事例を、三つだけ紹介したいと思います。
これらは、いずれも私が関わりを持った地域再生計画として認定され、進められていった地域通貨です。
一つは北九州市です。環境パスポートという地域通貨です。これは、何か環境に優しい活動、環境に貢献する活動をした人にポイントを差し上げましょうという地域通貨です。
例えば、リサイクル。あるいはマイバッグを持って行って、レジ袋は受け取りません。あるいは地域清掃活動などです。北九州は、かつて四大工業地帯の一つとして数えられる公害都市でした。何とか環境に力を入れたいということで、環境に貢献した人にポイントを差し上げようということになりました。それを何に使えるかというと北九州市では、ごみが有料です。神戸はまだ無料ですけれども、北九州市は今度また値上げして、一袋30円を50円にしました。なぜ値上げをするかというと、最終埋め立て処分場にごみを持っていって処分するとそれだけで環境に負荷を与えますし、税金もかかる。何とかごみを減らしたいということで、ごみ有料化に踏み切ったわけです。ただ、環境に良い活動をした人はポイントがもらえるので、実は北九州の環境に良い活動をした人は、結果的に無料になります。ですから、ふつう商店などは、なかなか喜んで地域通貨に取り組んでもらえないのですが、事業系廃棄物の処理費にも地域通貨が使えたら、商店も含めてぐるぐる回りますよね。しかも、エコショップでの買い物も、地域通貨を使えるようにしました。だいたい紙もそうですが新しい製品よりリサイクル品の方がかえって高くつくことが多く、結局安い方が良いということで、リサイクル品は選ばれないこと多いのですが、リサイクル品の値段が高い部分、差額部分を地域通貨で支払えることにしたら、どんどんリサイクル品が売れていきました。これは少し気をつけなくてはいけない問題で、例えばリサイクルということで、ペットボトルや古紙、缶を集め過ぎると、今度はたまり過ぎて価格が暴落します。古紙回収もそうですが、集め過ぎたらかえって市場を乱してしまいます。ちゃんと出口も作っておいてリサイクルしないといけません。リサイクルとは、ぐるぐる回るからリサイクルなのです。そして、エコ商品や再生品を消費者に購入してもらわなくてはいけません。意識の高い人なら買ってくれますが、環境意識の高い人以外も「円」ベースで損することもなく、ごく自然に再生品、リサイクル品が市内で循環していく、こういう仕組みを考える必要があります。さらに、北九州市では累積ポイントに着目して「環境通知表」をつくりました。ゲームでも差し引きの残高と累積する経験値があります。この経験値を1年間記録して、どのような環境にいい活動をしたか。あなたの環境貢献は二酸化炭素排出量に換算すると木何本分です、という通知表になっているのです。単に地域通貨をやりとりするだけではなくて、環境に貢献した成績優秀者を表彰するなど、環境をよくするための取り組みや資源をうまく循環させるための仕組みとして地域通貨を取り入れたのが、この北九州市の事例です。

A温泉施設を活用した取組み(大分県別府市)
二番目の事例は、別府です。これは温泉施設を活用した事例です。温泉というのは、お湯がドンドン湧いて、何人入ろうがその分コストが高くなるわけではない。そこで、こうした地域資源を生かし、いろんなボランティア活動に対して、あるいは受診率を上げるために健康診断を受けた方に対して温泉に入れるポイントを差し上げるというものです。それからプロスポーツですね。大分にはプロのサッカーチームやバスケットボールチームがありますが、これも試合に空席があっては結局ムダです。せっかくなら地域の人たちにたくさん応援に来てほしい。しかし、タダにしてしまったら、球団経営も成り立ちません。さらに、球団へ割引した分のポイントが入ると、例えば市営の運動施設でチームが練習するときには、そのポイントを使用料に充てられるようにするなど、うまく地域通貨を回してやる仕組みを別府市は工夫していました。

B離島という特性を生かした取組み(島根県海士町)
それから最後は、隠岐の島にある海士町です。地域通貨に取り組むまでは、離島なので皆さん、例えば電化製品などは本土の大規模店で買っていたのです。そして配送料はかかるけれども送ってもらう。こんなことしていると、町中の商店は商売あがったりですから、いざ今すぐ欲しいというときに、地元ではみんな買えなくなってしまいます。やはり地域通貨も活用しながら地元の商店街でみんなに買い物してもらう必要があります。それからもう一つあります。隠岐の島ですから、観光客がたくさん来ます。こういう人たちにお土産を買ってもらうのですが、「円」で買ってもらうのではなく、まず現地に着いたら地域通貨に替えてもらうのです。地域通貨で買うと安いですよという仕組みにすると、みんな喜びます。しかも、小泉八雲のラフカディオ・ハーンの「ハーン」なのですが、「ハーン」という単位で非常に凝ったデザイン性のある地域通貨なので、結構皆さん最後は500ハーンとか1,000ハーンをお土産に持って帰られます。「円」を地域通貨に替えてもらって、かつ、お土産として持って帰ってもらった分は丸もうけです。もう一つは、インターネットを活用して地場産品をネットショッピングで買ってもらう際にハーンをつけるやりかたです。こうしてハーンが貯まったら、隠岐の島ならいろんなところで使えます。要するに、地域を中心に経済を循環させる仕組みです。さらに、海士町は財政危機なので、職員の皆さんはボーナスの3割を地域通貨で受け取っています。そこまでやっています。それだけやることができれば、少し変わってくるのかなとも思います。これには、一応法律上の制約があります。給料は全額現金で払うと法律で決まっているので、希望者は地域通貨に替えてくださいと呼びかけたら、95%以上の職員がボーナスの3割を地域通貨に換えてくれたということです。職員の皆さんが、地域通貨で受け取るということは、買い物は島内でしますという宣言なのです。島の商店の方々も、それなら地域通貨を受け入れましょうということになり、商店も観光客もと広がりました。さらに、島外からインターネットで特産品を買った人も「ハーン」が貯まったら、せっかくだから使おうということで、高い航空運賃を払って本土から来てくれます。地域通貨は、こうした情報通信技術を使えば、単に地域内だけでなくて、例えば海士町であれば海士町という隠岐の離島のファンクラブを全国に広げられます。あくまでもメンバー制ではありますが、交流人口の拡大にもつなげていこうとしています。こういう地域通貨の取り組みも始まっています。いろいろお話いたしましたが、時間も参りましたので、以上で私の講演を終わります。どうもありがとうございました。


【追加コメント】
 私は、4月から兵庫県の政策局に来ましたが、兵庫県ではいろんな施策を評価する具体的な数値目標をもっています。その中で兵庫県は地域通貨の数で日本全国一を目指しますと書いてあります。どうも数を調べたら全国一だというので、本当かなと私は思ったのですが、どうもこれは休眠中のものも含めてカウントしているので、数だけは多いということのようです。実際に動いているのかどうかというところまで、県が調べて数値目標を検証しているわけでもないようです。
 これは、兵庫県だけの話ではなくて、全国的に見ても、今、地域通貨に対する熱が、一時よりは相当冷めてきているなというのが、私の印象です。というのは、景気がかなり回復してきているということが一つ大きな要因なのかなと思います。さきほどコミュニティの活性化と地域経済の活性化と、大きく二つ地域通貨の目的があると申し上げましたが、景気が回復してきたら、地域経済活性化の方は、やはりニーズが落ちてくるということです。 一方で、コミュニティを再生するための地域通貨は、まさに2007年問題というものがありますから、これからますます求められていくことになりそうです。しかし、それも本当にうまくいっているのかどうかという話になると、実は地域通貨でコミュニティの活性化を図るときに、例えば40人とか50人のメンバーで、最初は知らない人同士で地域通貨を始め、その人たちに助け合いの関係ができた場合でも、一度人と人のつながりができて、メンバーが固定化してしまうと、地域通貨の一つの使命は終わったというか、卒業なのです。それこそ、昔の農村コミュニティでは「結(ゆい)」とか「講(こう)」という形で、助け合いをしていたわけです。ただ、これからの社会というのは、おそらく新しいメンバー、特に会社人間だった団塊の世代の方々が、どんどんコミュニティに帰ってくる。その際に、新しいメンバーもどんどん迎えつつ、地域通貨でしっかりと人のつながりや助け合いの関係というものを構築していくことが想定されます。そのような時に、やはり40人や50人というのでは、ちょっと寂しい。もう少し広がってほしいですし、メンバーの入れ替りというのも出てくるでしょうが、それでもきちんと助け合えるような方向にむかっていくことを期待しています。地域通貨は、食い逃げするような人がいると、うまく回りません。岡田先生のところの「千姫」は残高がマイナスでもオーケーということですが、それはそれでいいという広い心でやれば良いですけれども、例えば、思い切り人の世話になって、大きなマイナスを残して「はい、バイバイ」と去ってしまう人が大勢いたら地域通貨は成り立ちません。もっとも、実際はどこの誰ということがわかれば、そういう人はそう出てきません。地域通貨は、やりとりすると必ず人間関係がついてくるものなので、多分「バイバイ」と逃げていく人はいないだろうということです。ただ、ほんとうに人数が増えてきたときに、顔見知りではない人同士でも助け合えるツールとして地域通貨を考えたときには、やはり40人や50人で2年、3年仲よくなって、地域通貨など要らなくなりましたということではなくて、やはり持続的、継続的に地域通貨を回していく必要があると考えます。その際、単なる人と人との助け合いという一般論だけではなくて、さきほど私が講演で申し上げましたとおり、何か地域の眠れる資源を掘り起こすという機能を地域通貨に組み込んでやることで、地域通貨は回っていくのではないかと思っております。そういう意味では、今ご紹介いただいたいくつかのプロジェクトも、地域通貨でどういう眠れる資源を掘り起こしていけるかを考えたら、何か新しい展開が生まれるのではないかと思います。眠れる資源の一つの代表例は、遊んでいる人です。暇にしている人が何か動き出せば、これは人的資源を掘り起こすことになるわけです。これから多くの団塊の世代が退職されますが、そうした人的資源こそ掘り起こそうということなのです。例えば北九州市であれば、有料ごみ袋と交換しますというのは、市民の皆さんがごみを減らすために努力するということです。こうした市民の努力が眠る資源なのです。有料ごみ袋と交換するということによって、別に市役所はそれで損しているわけではない。ごみが減れば余計な税金を使わなくて済んでいるわけですから。あるいは、別府の温泉では、どうせガラガラの温泉にたくさんの人に入ってもらって、それでボランティア活動が活性化がするならそれでいい。あるいは、「めがねプロジェクト」でもそうですね。家で眠っていためがねがみんなの役に立つ。これも眠れる資源です。別にみんなでお金を出し合ってめがね屋さんから買って送るのではなくて、眠れる資源を有効活用する。おそらく地域には、こうした眠れる資源がたくさんあると思います。そういうものを掘り起こす、何かそういう機能を一つ組み込んでやれば、単なる仲よしグループを超えた、もう少し継続的にいろんな新しい人たちが参加できるような地域通貨になるように思いました。

 あまりまとめということに、ならないかもしれませんが、事例を一つ紹介しますと、先ほど申し上げなかったのですが、実は去年、島根県雲南市というところへ岡田先生とフォーラムでお伺いしました。雲南市は島根県の山の中の過疎の町なのです。過疎ということは、かつてはたくさん人が住んでいたということです。ですから、雲南市出身で広島とか大阪に住んでおられる方がたくさんおられます。残されているのはおじいちゃん、おばあちゃんなどのお年寄りです。市役所は、デイサービスなどの福祉サービスを提供しているのですが、地元産品を都会に出られている方に、インターネットで販売し、ポイントがたまったら、デイサービスに使えますよという仕組みを考えました。特に介護保険の対象にならないような人的サービスは、国からの助成金や補助金もありませんから、なかなか町が単独でやるのは難しいので、そういうところに地域通貨を活用するのも面白い取り組みだと思います。これから日本も、高齢社会になってきます。日本が世界の中で高いものは何かといえば、人件費です。まともに「円」で介護、福祉をやったらものすごく高くつきます。一方で、世の中にちょっと役立ちたいとか、コミュニティのためならちょっと手伝ってもいいかなとか、そういう支え合う気持ちを持った方々が多いのが、日本の良さではないかと私は思っています。そういうところをうまく引き出していく必要があります。それから、人と人とのサービスのやりとりは、モノ以上にやっぱり顔の見える関係があるかないかということが、大きいと思います。顔の見える信頼関係なしにサービスを受けようとすると、「円」でやるから割高になってしまうし、それを税金で賄ったりしたらこれは大変なことになります。そこをもう少し地域やコミュニティで顔の見える関係をつくることによって、実はコストが安くて、安心して暮らせる地域社会が構築できるのではないか。そのために役立つ地域通貨になることを期待しています。

【平成18年7月23日講演 兵庫自治学会VOL.30より抜粋】